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共同親権制度のメリット?デメリット?~法制審議会の中間試案に対する弁護士の見解~

1 共同親権制度に関する中間試案(修正案)について

 2022年11月15日に、法相の諮問機関である法制審議会が家族法制の見直しに関する中間試案(修正案)をまとめ、その内容が公開されています。

https://www.moj.go.jp/content/001383761.pdf

 この中間試案では、いわゆる離婚後の共同親権の採否や内容について詳細にその試案が示されているので、今後の法改正についての考えをまとめるための材料として、以下、可能な限り分かりやすく説明をしたいと思います。

2 親権について

 民法は未成年については「父母の親権に服する。」と定めています(民法818条1項)。そして、この親権は、「父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」(民法818条3項)とされています。

 これがいわゆる「婚姻中の父母の共同親権」です。

 ところでそもそもこの親権ですが、具体的にどのような効力を持つかについて民法では以下のとおり規定されています(条文上は820条から833条までが親権の効力についての規定ですが、重要なものに限って引用します)。

第二節 親権の効力

(監護及び教育の権利義務)

第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

(居所の指定)

第八百二十一条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

(懲戒)

第八百二十二条 親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

(職業の許可)

第八百二十三条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。

2 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

(財産の管理及び代表)

第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)

第八百二十五条 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

 これらの規定からみても分かるように、親権は、未成年の子に関し、居所(住む場所)を定めたり、懲戒をしたり(この規定の削除については別途、議論がある)、財産管理や法律行為についての代理をしたりすることのできる権限です。

 このように、親権というのは未成年の子に関し、とても重要な意味を持つのですが、離婚後は現在の法律では父母のいずれかの単独親権とされているのです(民法819条1項、2項)。

3 監護権について

 上記の親権とは別に今回の共同親権の導入の当否の検討に際しては、「監護権」についても理解をしておくことが必要です。

 まず監護権とは何かですが、これは親権とは別に、具体的に未成年の子の日常生活上の身の回りのことを父母のいずれかが行うこととするかという問題です。

 すなわち、親権は、財産や契約など法律行為に関する事項についての定めであるのに対し、監護権はこれとは別に、身の回りの世話(炊事洗濯や日常生活上の雑多なこと)について定めたものです。

 そして、夫婦が同居中であれば当然、共同親権、共同監護となりますが、離婚を念頭に別居となれば共同親権ではあるものの、別居をきっかけに事実上、いずれか一方が監護をすることとなります。

 そしてこのような状況に陥ると、子と別居を余儀なくされた他方の親から子と同居をしている親に対して「監護者指定の審判」などの手続が取られることがあります。

 これは、離婚に至るまでの間に夫婦のいずれが子を監護すべきかを裁判所によって定めてもらうことを決める手続です。

4 共同親権の中間試案について

 ⑴はじめに

 中間試案では、民法を改正して共同親権を導入すべきか否か、するとした場合に具体的にどのように規定すべきかの試案を詳細に示しています。

 その試案では大きく、①共同親権を採用すべきかどうか、②採用するとした場合にどのような規定にすべきか、という観点で整理されています。なので、以下、その順に解説をします。

 ⑵①共同親権を採用すべきかどうかについて

 中間試案では、甲案として、現行の民法819条を改正し、離婚後の共同親権を認める規律(常に共同親権とすべきとはしていない)を設けるべきとしています。

乙案はその逆で、現行の民法819条を維持すべきとしています。

 そして、この甲案を採用した場合に、では、具体的にどのような場合に共同親権を認めるのかについて大きく以下の二つの案が示されています。

  •  甲①案;原則共同親権、例外単独親権
  •  甲②案;原則単独親権、例外共同親権

 現行法は単独親権なので、甲②案が現行に近いとは言えます。また、いずれの案にしたとしても、具体的にどのような場合に共同親権となるのか、単独親権となるのかの判断は非常に難しいのではないかとか、原則と例外の適用の違いを巡って紛争になったり、これが長期化したりしないかという懸念があります。

 ⑶②採用するとした場合にどのような規定にすべきか

 ア 共同親権とその行使の方法について

いずれにしても、甲案を採用した結果、離婚後も共同親権となった場合には具体的にその親権をどのように行使することになるのかが重要です。

 この時に、先に説明した監護権の問題とリンクして整理をしているのがこの度の中間試案のポイントです。

 具体的には、①離婚に伴い監護者の指定をすることを必須とするか否か、②監護者が指定されている場合の親権行使のあり方をどうするか、③監護者が指定されていない場合の親権行使のあり方をどうするかについて整理されています。

 このような整理は、離婚をしている元夫婦が、別々に暮らす中で具体的に子に対する親権を行使しようと思うと、お互いの意見対立が生じた場合にどうするかなどについて予め手当をしておかないと円滑な親権行使が実現しないためになされているものです。

 イ ①離婚に伴い監護者の指定をすることを必須とするか否か

 この点については、監護者の指定を必須とする案とそうでない案とが併記されています。

 ウ ②監護者が指定されている場合の親権行使のあり方をどうするか

その上で、実際に監護者の指定がされている場合には、監護者が子の監護に関する事項については監護者が担うべきとするかどうかを引き続き検討すべきとされるに留まっています。

そして、親権の行使については、以下の3つの試案が示されています。

  • α;監護者が単独で行使可。ただし、他方に報告が必要。
  • β;親権は共同で行使。ただし、協議が調わないときなどは監護者が単独で行使可。
  • γ;親権は共同で行使。協議が調わないときなどは、家裁が親権を行う者を定める。

このように、共同親権と監護権とを引き付けており、αの場合には、現行の単独親権の制度にかなり近いものの、監護権を持たない他方の親権者に対して都度、報告をしないといけないというのは大変だと思います。

さらには、βやγの場合、夫婦の離婚のいざこざを離婚後にも持ち越すようなものであり、DV事案やモラハラ事案では到底、採用すべきでない案ではないでしょうか。

エ ③監護者が指定されていない場合の親権行使のあり方をどうするか

 では、監護者の指定がない場合にはどうでしょうか。

 この点については、親権は父母が共同して行使することを原則とし、協議が調わない場合などには家裁が親権を行使する者を指定するとの案が示されています。

 これもやはり離婚後のトラブルの原因のように感じます。

5 中間試案を踏まえて

 以上のように中間試案では、共同親権のあり方についての詳細を複数のパターンに分けて整理をしています。

 その上で考えるべきは、やはりそもそも共同親権を導入することが誰にとって有益なのか、大きな弊害はないのかということです。

 私もどうしてこの共同親権の問題が大きく取り上げられ、法制審議会にて審議されているのかを詳しく把握していませんが、離婚問題や子どもの権利の問題を日ごろから多数扱う身としては、共同親権の導入のメリットがあるようには思えません。

 それどころか、DV事案やモラハラ事案を典型に、共同親権には消極にならざるを得ないと思っています。

 この点、共同親権の制度を導入しても、常に共同親権となる訳ではなく、事情によっては単独親権に出来るから構わないのではないかとの声もありそうです。

 しかし、たしかに典型的なDV事案、モラハラ事案で、誰がどう見ても、また証拠上もこれらが明らかに認定できるケースであれば単独親権を勝ち取ることも可能でしょう。しかし、グレーなケースや、証拠がないためにDVやモラハラの認定までは受けられないケースはどうでしょうか。

 このようなケースでは、婚姻生活時、離婚協議や調停時にDVやモラハラで苦しみ、挙句の果てに離婚後にも苦しむこととなるのです。

 法律でこのような被害者が生じ得る状況を作るべきでないというのが私の考えです。

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