1 いじめ被害の弁護士への相談や依頼の重要性について
いじめの防止と対策の重要性について
いじめは、いじめ被害者の教育を受ける権利を侵害し、心身の健全な成長や人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、生命身体に重大な危険を生じるおそれがあることから、何としてでもこれを防止しなくてはなりません。
当然、学業にも大きく支障が生じ、単位の取得や卒業、その後の進路や人生設計にも児童生徒に大きな影響を及ぼします。親としても、大切な我が子の人生が狂わされたと、いじめ加害に対して許せない強い気持ちを持つことでしょう。
そこで、このコラムでは、いじめ被害を弁護士に相談することの意味や、依頼をした場合の対応、解決などについて詳しく解説をしていきます。なお、いじめの相談は、いじめ問題に詳しく相談対応経験のある専門の弁護士にお願いしてください。弁護士の中には子どものいじめ相談の経験がない、乏しい弁護士も少なくありません。そのような弁護士に相談を持ち掛けても思うような相談結果にはなりませんのでご注意ください。
まず、上記のような意味でのいじめの持つ影響については、いじめ防止対策推進法において、第1条で明確にされています。
【いじめ防止対策推進法】
第一条 この法律は、いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであることに鑑み、児童等の尊厳を保持するため、いじめの防止等(いじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処をいう。以下同じ。)のための対策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにし、並びにいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針の策定について定めるとともに、いじめの防止等のための対策の基本となる事項を定めることにより、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする。
このように法律上はいじめについて明確な定義がなされていますが、いざ実際問題として具体的にどこからがいじめに該当するのかどうかは難しい判断が伴います。この点については別の記事に詳しく解説をしていますのでそちらもご参照ください。
いじめを受けた被害者は、単に心身を傷つけられたというだけでなく、不登校や転校に至り、その後の人生に長いこと場合によっては生涯に渡り回復し難い深い傷を負うことになるのです。最悪のケースでは、いじめをきっかけに自殺したり死亡したりすることもあり、大きな社会問題になっていることはご承知のとおりです。
これら被害は当然、法的にも許されるものではなく、いじめ加害者や学校などには可能な限りの責任追及や問題の改善が求められてしかるべきです。
なお、このようないじめに対しては、複数の相談窓口があります。当然、弁護士もその相談窓口の一つですが、その他にも複数の相談窓口がありますので以下、ご参照ください。
いじめに対する学校の対応について
いじめの防止と対策に対する学校の責務について
いじめの多くは学校内の人間関係の中で、学校という場の中で行われます。そのため、いじめが認知されれば、まずは学校の担任や主任、校長教頭がその対策をとることが必要です。
上記のいじめ防止対策推進法においてもこのことは明確に定められています。
なお、当然のことですが、学校や教職員は、そもそもいじめの防止にも取り組むことが求められています。
【いじめ防止対策推進法】
第八条 学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。
いじめに対する実際の学校の対応について
以上のように、学校や担任などには①そもそもいじめを防止すべき義務があり、②仮にいじめが生じた場合には適切かつ迅速な対処をする責務があります。
ところが、実際の学校現場では未だにこれらの義務や責務が十分に果たされず、いじめを未然に防止できなかったり、これが生じた際にも被害児童に対する十分な手当もできず、酷い場合にはいじめの存在自体を無いもののように扱ったり、被害児童に対する二次被害を生じさせるケースすらあるのです。
具体的には、以下のようなケースが見受けられます。
- ①加害児童によるいじめを黙認している(教室内での明らかないじめ、授業中のいじめを見て見ぬふりをする。)。
- ②加害児童によるいじめに教員が加担している(加害者によるいじめに教員が同調する。)。
- ③被害児童によるいじめ被害の訴えに対して、聞く耳を持たない(いじめがあたかも大したことがないもしくはふざけ合い程度にしか受け止めない。)。
- ④被害児童のいじめ被害の訴えや受けた苦痛に対して、被害児童本人にも落ち度があるような言い方をする(被害児童も叩き返していた、言い返していたとか、被害児童にも悪いところがあると指摘する。)。
- ⑤いじめ被害により傷ついている被害児童に対して、十分な配慮がない。
どうして学校がいじめに対して十分に対応しないのかについては、また別の記事に詳しく解説をしています。ご参照ください。
いじめ被害の弁護士への相談や依頼の重要性について
以上のように、①いじめは被害児童の心身や生命身体に対する重大な影響を与えること、②必ずしも学校や教員は被害児童の状況を十分に理解し、味方になってくれるわけではないことから、いじめ被害の回復やその対応のために、この分野に詳し専門家たる弁護士への相談や依頼(介入)が重要になるケースがあります。
より具体的には、いじめは第三者の目に触れにくい方法で行われることがあり、いじめ被害を訴える際の証拠収集に苦労すること、いじめ加害者は多くは複数に渡ることがあり、誰にどのいじめについての責任を追及するかの判断が難しいこと、いじめ加害者は自己の責任(とりわけ法的な責任)を認めない傾向にあること、学校や教師(担任)についてもいわゆる隠蔽体質がまだまだ残っており、「事なかれ主義」による解決を試みようとしがちであること、さらにはいじめを受けた被害者やその家族にも原因ないし落ち度があるかのような態度をとる加害者や学校もあること、法的責任の追及といっても加害者や学校、教師にどのような根拠で何をどの程度請求できるかの判断が難しいことなどから、弁護士への相談や依頼が大きな意味を持つことがあります。
なお、上記のようにいじめ被害はその証拠収集に苦労することも多いところ、具体的にどのような証拠をどのようにして集める必要があるのか、仮に証拠がない、不十分な場合にどのように対応すればよいのかを別の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
2 いじめ被害の弁護士への相談について
いじめ被害について、上記の理由から弁護士に相談をすることがとても重要だといえます。その際、相談をしたら必ず弁護士への依頼をしなくてはいけないとうことはないのでまずは気軽にお電話にてお問い合わせの上で、ご相談ください。
また、弁護士は守秘義務を負うので聞いた内容を他者に伝えることはありません。いじめ加害者や学校と利害関係がある場合(弁護士がいじめ加害者と知り合いであったなど)には、事前にご相談自体をお断りするので加害者らと通じている弁護士が相談を受けることもありません。
ご相談の際には、いつから誰に、どのようないじめを受けてきたのか、そのことについて学校にはどのように相談をしてきたのか、いじめの結果、現在、どのような状況なのかをお聞きすることとなります。なので、これらに関係する資料があるようであれば確認のためにお持ちください。
なお、いじめ被害についての弁護士への法律相談費用は、当事務所公式サイトの以下のページをご参照ください。
「法律相談費用」
3 いじめ被害の弁護士への依頼(介入)について
⑴はじめに
ご相談の上でいじめ被害の解決のために弁護士にご依頼を頂き、事案の解決のために弁護士が介入する際には、具体的には次のようなご依頼になることが多いです。以下、順にご説明いたします。
- ①いじめについての実態調査の申し入れ
- ②いじめ加害者や学校に対する法的責任の追及(損害賠償請求等)
- ③いじめの内容がネットに及んでいる際の投稿記事の削除
⑵①いじめについての実態調査の申し入れ
いじめ防止対策推進法では、いじめが生じた際の国や地方公共団体といった行政、学校などの責務を規定しています。そこでは、いじめの事実があれば調査を実施すること、いじめをやめさせること、再発防止策をとることなども規定があります。
【いじめ対策推進法】
第二十三条 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。
2 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
3 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。
4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
5 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
6 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。
これらに加えて、当該いじめが「いじめ重大事態」に該当する場合には、いじめ実態調査の申し入れが可能です。いじめ重大事態も含めたいじめ対策推進法の詳細は別のページに解説していますのでご参照ください。
「いじめ防止対策推進法について」
⑶②いじめ加害者や学校に対する法的責任の追及(損害賠償請求等)
ア 法的責任の根拠
いじめ加害者らへの具体的な法的責任の追及はすなわち損害賠償請求となります。いじめ加害者への損害賠償請求の法的根拠は民法709条に求めることが可能です。他方で、学校に対しては公立学校であれば国家賠償法、私立学校であれば民法715条などに根拠を求めることが可能です。
なお、いじめ被害の損害賠償として何をいくら請求できるかは別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
また、いじめの法的責任を追及した裁判として有名な大津いじめ訴訟に関しても別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
イ 責任追及の方法①(内容証明郵便の送付と示談交渉)
その責任追及の具体的方法としては、たとえばいじめ加害者に対してであれば、弁護士による代理人名義で内容証明郵便を送付し、いじめの存在を前提としてこれを直ちに止めること、生じた損害に対する賠償をすべきこと、謝罪などを通知することが考えられます。
いじめ加害者は未成年者であることが多いでしょうから、その場合には法定代理人親権者に対して内容証明郵便を送付することとなります。
内容証明郵便は、これを受け取ったことが郵便局による配達記録として残りますので、こちらの言い分がきちんと相手方に届いたことの証明となります。また、内容証明郵便は個人で作成し、送付することも可能ですが、弁護士が代理人の名義で送付することは弁護士がいじめの問題に直接介入し、そのことに対して法的責任をいじめ加害者に通告するという意味で非常に大きな効果が期待できます。
内容証明郵便の送付の結果、いじめ加害者との間で協議、交渉が実現でき、示談の条件に折り合いが付けばそこで示談が成立します。当然、弁護士が示談書を作成するので内容については安心してください。
なお、示談交渉のメリットとデメリットについては以下のページをご参照ください。
「示談交渉による解決のメリットとデメリット」