1 いじめと不法行為責任
同級生や先輩からのいじめにより不登校になった、転校を余儀なくされた、ケガをした、精神病になった、死亡したなどの被害やトラブルや問題が生じた際には、その原因となった加害児童となった相手やその保護者(親、親権者)、学校や教員(担任の教師)に対して損害賠償を求めることが可能です。
損害賠償を求める際の法的根拠や必要な手続き(示談交渉や裁判ないし訴訟など)については以下で引用している本サイトの別の記事にて詳細に説明していますのでご参照ください。
「いじめ被害を弁護士に依頼した場合の対応について」
それとは別にここでは、いじめ被害により被った損害について法的には何をいくら請求できるのかをご説明いたします。いじめ問題の解決のために、最低限、加害者らに請求できる、追及できる内容をご理解いただけますと幸いです。正しい情報に基づく請求の方法を念頭に、相手への対処を行うようご検討ください。
当然、弁護士のサポートが必要とのことであればまずは相談をなさってみてください。
2 いじめによる損害賠償の内訳について
いじめにより被った損害については、いじめの内容にもよりますが、一般的には以下のとおりの項目に従った賠償金の請求ができる可能性があります。したがって、これらを示談交渉や裁判でどのように請求が可能か否かを順次ご説明いたします。
なお、相手方への請求の方法としては、まず先に示談交渉を持ち掛けて、それでも決着が着かなければ次に裁判をし、判決の結論を受けるという流れが一般的です。
①ケガや心療内科への治療費
②被った精神的苦痛に対する慰謝料
③転校のための転居費用や学用品費
④死亡に対する賠償
⑤要した弁護士費用
3 ①ケガや心療内科への治療費
暴行を伴ういじめによりケガをしたとか、精神の不調を来したという場合には通院の必要が生じます。そのため、これらに要した治療費は当然に加害者に請求できます。
ここでいう治療費とは、いじめにより被ったケガや心療内科などへの通院に必要になった費用のことを指し、当然のことですが、薬代も含みます。
また、通院のためには保護者が同伴することも通常必要でしょうから、同伴に伴い生じた損害(会社を休業したとか)についても請求が可能です。
これは、通院付添費用といい、未成年の子がひとりで通院できないことに伴い、保護者ないし家族が付き添うことの負担に伴う費用の補償を意味します。
さらには、通院のための交通費も請求できます。
これは、通院交通費といい、いじめという加害行為がなければ当然、通院の必要もなかったのであり、通院に伴い必要になった交通費もまた加害者らが負担すべき被害者の損害だといえます。
これらの請求のためには、実際にかかった金額を明らかにするために病院の診断書や領収書、請求書を手元に残しておくことが大切です。通院の交通費の場合には、タクシー利用であれば領収書を、そうではなく自家用車の場合には通院経路に照らしたガソリン代相当の請求が可能です。この場合にはガソリンの領収書はなくても計算ができるので領収書は必須ではありません。
その他、公共交通機関の場合には移動経路に基づき計算ができるのでその計算結果に基づき請求をすることになります。
4 ②被った精神的苦痛に対する慰謝料
いじめは心身に重大な影響を与える不法行為であり、被害を被った児童生徒の精神的苦痛に対して慰謝料請求が可能です。
ただし、その算定は容易ではなく、たとえばケガをしたケースであれば通院に要した期間に照らし、交通事故の損害賠償の際の基準も踏まえつつ算定することがあると思います。
また、不登校になった場合にも期間に応じての算定がベースになります。
さらに、死亡事案であれば死亡慰謝料の請求となり、やはり交通事故の事案をベースに1500万円から2000万円程度の金額算定がされると思います。
これらを要約すると、いじめの際の慰謝料算定の考慮要素は、いじめに遭っていた期間、回数、頻度、態様、加害者等と被害者の関係などをベースに、治療に要した期間や内容、不登校の期間などを加味して判断されるものと考えられます。
5 ③転校のための転居費用や学用品費
悪質ないじめの結果、転校を余儀なくされた場合には転校により転居も必要になったとしてその費用を求めることもあると思います。
ただし、いじめにより転校が必要になり、さらには転居まで必要になることがいじめという加害行為と相当因果関係にある損害といえるかどうかは慎重な判断が求められます。加害者側は当然にこれを争うでしょうから、いじめによる転校の必要性のみならず、転居の必要性についても厳密な証拠や立証が求められます。そのため、民事裁判(民事訴訟)でこれら費用が裁判所に認められるかは慎重な判断が必要です。
仮にこれに成功すれば、賠償請求が認められます。また、話し合いの中で相手が認めた場合にも支払いを受けることができます。
他方で転校に伴う学用品費は一定程度での認定があり得ると思いますが、学用品はいじめの有無にかかわらず必要になるものなのでその点の注意が必要です。
なお、いじめ被害に遭った際の学校の対応については、これが不十分であると感じる保護者も多いところです。その問題点については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
他にも、いじめについて学校の責任を問えないかも別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
6 ④死亡に対する賠償
4項で死亡の慰謝料について触れましたが、これとは別に死亡に伴う逸失利益についても請求が可能です。
逸失利益とは、死亡しなければ将来働いて得ることのできたはずの金額のことです。その算定に際しては、未成年者の場合にはまだ就労していないことから、将来、どの程度の賃金を得る見込みだったかを元にし、就労可能期間と掛け合わせて算出します。
その他、死亡に伴う近親者(保護者や親権者、父母ないし両親)の慰謝料も請求が可能です。これらは、近親者慰謝料と言い、いじめ加害行為により不幸にも生徒児童が死亡したことに伴う近親者の精神的苦痛に対する賠償を意味します。
なお、死亡の原因がいじめを理由とした自殺にある場合には、いじめ行為と自殺との間の因果関係の立証が重要な争点となります。この争点に関しては、大津いじめ訴訟にて議論がなされ、最終的にはいじめ行為と自殺行為の因果関係を肯定しています。
7 ⑤要した弁護士費用
いじめによる被害に対して損害賠償を請求し、問題を解決するためには弁護士に依頼することが多いと思います。
その際、裁判所は、認容した金額の約1割を加害者が負担すべき損害として認めてくれます。
したがって、たとえば損害額として300万円が認容されるケースであれば、これと別に弁護士費用30万円が認容されることが多いです。
弁護士を依頼するか否かは被害者側の自由ですが、要した弁護士費用は加害者によるいじめという不法行為のために必要になったものなので、その全部もしくは一部を求めることが可能とされているのです。
いじめ被害の対処のために弁護士を入れることのメリットやポイントは、交渉などの窓口になってもらえること、妥当な賠償額を計算し提示できること、示談等が成立した際に、しっかりとした合意文書、示談書を作成してもらえることなどにあります。
他にも加害者との交渉の場に同席してもらうことのメリットもあります。この点については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
8 まとめ
いじめの損害賠償について、いくら請求できるかは以上のとおりです。当然、いじめの認定が受けられることや、加害者やその保護者、学校や教員に故意や過失(予見可能性)の立証ができることも必要です。
そのため、いじめの認定そのものについても必要十分な立証活動が必要です。加えて、受けられる損害賠償額の算定には複雑な計算が付いて回りますのでいじめ問題での損害賠償請求をご検討の方については詳しい専門家弁護士へのご相談をお勧めいたします。とりわけ、いじめ被害は人生被害そのものであり、心身ともに深く傷つけられる中、費用面でも被害者側が負担をしないとならないという非常に不合理な結論になりがちです。そのような負担を少しでも軽減するためにはやはり弁護士を通じた請求が重要になると思います。
当事務所では、ご相談の上で、事実に照らした具体的なアドバイスが可能です。
なお、いじめ被害を弁護士に相談等した場合の対処法ないし対応策等については、以下のページに詳細に説明をしていますのでぜひご参照ください。