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いじめ加害者に内容証明を送り、子どもを守るための弁護士解説

 このコラム記事では、いじめ問題に詳しい弁護士が、加害者らに送付する内容証明郵便の内容や注意点などについてポイントに絞って解説をしています。以下の解説を確認して頂き、内容証明郵便の作成方法や送付方法、これらを通じたいじめ問題の解決をご検討いただけますと幸いです。

1 内容証明郵便とは何か?

 内容証明とは、一般書留郵便物の内容文書について証明するサービスのことを指します。すなわち、いつ、いかなる内容の文書が誰から誰に差し出されたかを郵便局が証明する制度のことです。

 このような性質を持つ内容証明ですが、通常は、かかる機能に加えて、配達記録を付けて利用、発信されることが多いです。

 つまり、内容証明に加えて配達記録を付けることで、「いつ、いかなる内容の文書が誰から誰に差し出され、かつこれがいつ誰によって受け取りになったのか」を明らかにすることができるようになります。

 内容証明郵便は、弁護士など法律専門家であれば、「どのような文書、書面をいつ送り、これがいつ受け取りになったのか」の証明(とりわけ裁判での証明)のために頻繁に利用するものです。

 他方で、一般の方の間においては、内容証明郵便を送付することも、受け取ることもそう頻繁にあるものではありません。そのため、内容証明郵便が弁護士から届いたとなれば通常はその文書の意味について非常に心配をすることでしょう。

 そのような意味で「内容証明郵便を送る」ということには、上記のような証明としての機能の他に、文書の名宛人に対してプレッシャーを与えるという事実上の効果が強く期待されていると言えます。

 なお、内容証明郵便は自分で自分の名義にて送ることも可能ですし、弁護士等の法律の専門家に作成し、送付してもらうことも可能です。いずれか適切な方法を選択頂けたらと思います。

【内容証明郵便の機能】

①いつ、どのような内容の文書を相手に送ったかを証拠化するという法的な意味での機能

②文書の名宛人に対するプレッシャーを与えるという事実上の機能

2 いじめ加害者に内容証明郵便を送るまでの流れ

 ⑴いじめ被害者の学校への相談と対処

  いつまでも繰り返されるいじめに対して、いじめ被害者としては、これをどうにかして止めたいとの思いを持つのが通常です。そのための手段としては、ほとんどのケースでまずは学校への相談がなされることと思います。

  しかし、学校が思うように動かない、学校が動いてもいじめが止まない、場合によっては学校に知られないように目に見えない形でのいじめが継続するというケースが少なくありません。

 ⑵いじめ加害者との直接の交渉

  そうなると、いじめの被害者は学校を頼りにこれを解決することはできません。そこで次に、直接いじめ被害者の親や保護者から、いじめ加害者やその親ないし保護者に、いじめ被害を訴え、これを止めるように求めるケースもあるかと思います。

  しかし、これでも応じないケースというのは少なくありません。要はいじめ加害者は、いじめ被害者ないしその保護者のことを低く見ていることから、被害者らが直接何かを求めてきても何ら気に掛けることもしないのです。

 ⑶警察への相談

  そこで被害者として止むなく、今度は警察に相談をすることも少なくありません。

  そして、文部科学省では、教育委員会に対し、犯罪行為にあたるいじめはただちに警察に相談、通報を求めるよう対処すべきとの通知を発出しています。そのため、本来であればこれら犯罪にあたるようないじめに対しては教育委員会を通じて警察に通報がなされ、これを受けた警察は、当該いじめが犯罪行為に該当するか否かの捜査を行うことになります。

  しかし、実際には事なかれ主義の教育委員会は積極的に警察に通報するばかりとは言えません。また、警察の方もこれまで学校内でのトラブルは、生徒同士もしくは学校や教育委員会が介入することで解決することを念頭に置いています。結果、文部科学省の通知の上でもまだまだ警察を通じてのいじめの解決は容易ではありません。

  このことは教育委員会を通さずにいじめ被害者自らが警察に被害を相談した場合でも同様です。

 ⑷弁護士介入と内容証明郵便の発送

  このような経過を経て、いよいよ打つ手が無いと感じた中で、弁護士への相談や依頼を経て加害者に対して内容証明郵便を送るようになることが多い傾向にあります。

  当然、内容証明郵便は当事者の名義で発送することが可能なので、弁護士への依頼をしないと内容証明郵便が送れないということはありません。

  とはいえ、内容証明郵便を送ることの意味は上記のとおり、これを発送することでプレッシャーを与えるという事実上の機能が非常に大きいところです。そのため、どうせ送るのであればこのプレッシャーが出来るだけ大きい方が効果的です。当然、当事者の名義で、かつ当事者の作成する文書で送るよりも、専門家である弁護士の名義で、かつ弁護士の作成する文書で送った方が効果的であることは明らかです。

  そのため、どうせ内容証明郵便を送るのであれば、この分野に詳しい弁護士に作成してもらい、弁護士の名義で送ってもらう方が確実です。また、その際には後々裁判になる可能性があることを視野に入れた上で、作成をお願いしておくべきと言えます。なぜなら、内容証明郵便はある意味での相手方に対する宣戦布告のような機能を持つため、示談での解決にならなければ裁判での決着による他なくなるからです。

3 誰に内容証明郵便を送るべきか?

  さて、以上のようにして内容証明郵便を送ることになった際に、では実際には誰に内容証明郵便を送るべきかを検討することとなります。

  当然、いじめの直接の加害者に対して送ることは必要ですが、直接の加害者と言っても複数に及ぶ場合には、全員に送るのかどうかが問題となります。

  また、いじめ加害者の保護者についても責任を問えるのかどうか、問えるとしたら保護者も宛名に含めるのかも問題となります。さらには、学校や担任教員など学校側の責任も問えるのかどうか、問えるとしたら学校や担任にも送るのかどうかが問題となります。

  その意味ではいじめの実態を十分に精査し、誰にどのような根拠に基づいて内容証明郵便を送るのかを決めることとなります。この点、いじめ加害の実態は非常に複雑化、多様化していますし、いったん発送した内容証明郵便は後に撤回などできないことから、当初の段階での慎重な方針検討が非常に重要になります。

【内容証明郵便を送る相手方について】

⑴いじめ加害者本人

⑵いじめ加害者の保護者(親権者)

⑶学校や担任教員

4 どのような内容で送るべきか?

 ⑴いじめ加害者らに内容証明郵便を送ることの意味

  いじめ被害のために内容証明郵便を送るのには、いくつか理由があります。

  この点、いじめが現在も継続しているケースであれば、まず第一に、当該いじめを止めさせる点に主眼が置かれます。いじめの加害者は、自らが行っているいじめについて、場合によっては被害者自身やその保護者を軽く見ていることがあります。すなわち、いじめを続けていても被害者がさほどの反論をしてきたり、反撃をしてきたりすることまでは考えていないことが多いのです。そうした状況の中で、弁護士を通じて法的な責任追及やいじめを直ちに止めることを求める内容証明郵便が届くというのは非常に大きな意味を持ちます。

  内容証明郵便を送ることの第ニの意味としては、受けた被害に対する損害賠償(とりわけ慰謝料)や謝罪を求めるという点にあります。いじめは人生被害そのものであり、これにより受けた被害は本来的には金銭で換算しきれないものです。そのため、まずせめて謝罪をしてもらいたいというのは被害者の切なる願いそのものです。

  そして、被った損害をなかったことにはできない以上、せめて金銭賠償を求めたいと考えるのは被害者の心情として当然のことです。その上で内容証明郵便を送ることの第三の意味としては、損害賠償を求める内容証明郵便を送ることは、消滅時効の完成猶予のための催告としての意味を持ちます。過去のいじめ被害が時効により請求できなくなることを暫定的に防止するために非常に重要な意味があります(民法150条1項)。

【内容証明郵便を送ることの意味】

①当該いじめを止めさせる

②いじめ加害者に損害賠償を求める

③消滅時効の完成を猶予させる

 ⑵内容証明郵便に記載すべき内容について

  以上のような内容証明郵便を送ることの意味を踏まえ、具体的にどのような内容を記載すべきかを検討することとなります。

  この点、まずとにかく大事なことは「いつ、誰から、どのようなことをされたのか」といういじめの具体的事実を明確にすることです。いじめは往々にして誰からどのようなことをされたのかが明確化できないことが少なくありませんし、証拠が限られていることから、いじめ加害者に否定されることも少なくありません。さらには、受けたいじめについて損害賠償や刑事責任を求めるためには、できるだけ具体的に被害の実態を明らかにしておくことが必要です。

  これらの理由から、上記のように、いじめの実態を具体的に記すことがとても重要です。

  次に大事なことは、上記のような具体的ないじめの内容やどうしてそのような事態に至ったのかについて、それがどのような法的根拠に基づき、被害者に対する不法行為を構成し、損害賠償の対象となるのかということや、刑事責任の対象となるのかということを分かりやすい言葉で明確化する点にあります。

  いじめは一般的に被害者に対する民事上の不法行為となります。とはいえ、加害者の行為のどのような点がどのような理由で不法行為になるかは、被害者側ないし損害賠償を求める側で明確に指摘することが必要です。学校や担任に民事上の不法行為責任を求める場合には、安全配慮義務違反の構成をとることもあるので、その点の指摘も重要になります。

  また、いじめが加害者から被害者に対して、一般的には民事上の不法行為になるとしても、すべてが刑事事件になり、刑事責任の対象となる訳ではありません。いじめが刑事責任の対象となるとすれば、暴行、傷害、脅迫、恐喝、名誉毀損、侮辱などの個別の犯罪構成要件を充足する場合に限られます。かつ、いじめの加害者にこれらの刑事上の責任を問えそうな場合であっても、保護者には問えないことも刑事責任の特徴です。

  さらには、いじめ加害者に刑事責任を問えても、学校や担任にまでは刑事責任を問うことは難しいのが通常だと思います(担任が加害児童と一緒になっていじめ行為をしていたような場合などを除く)。

  いずれにしても、内容証明郵便に記載すべき内容は、上記の各点を踏まえて法的にも筋が通ったものにすることがとても大切です。それらを網羅した上で、やはり内容証明郵便には、いじめ行為を直ちに止めることや、再発しないことを求める内容を盛り込む必要があります。

 また、内容証明郵便にある通知の内容に対応をしない場合には裁判所に裁判を提起する予定であることを明記しておくケースもあります。

【内容証明郵便に記載すべき内容】

①いじめの具体的な事実関係

②これが民事上の損害賠償の対象となること

③場合によっては刑事責任の対象となること

④いじめを止めるよう求めること、繰り返さないよう求めること

  なお、いじめによる損害賠償として何をいくら請求できるかについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

「いじめによる損害賠償として何をいくら請求できるか」

5 内容証明郵便を送った後はどのように対応すべきか?

  内容証明郵便を送った後には、相手方によりこれが受け取りになれば、何らかのリアクションがあることもあれば、書いた内容に何らリアクションもないこともいずれもあり得ます。

  リアクションがあるケースとしては、以後のいじめが止まる場合が大半だと思います。他方で、損害賠償を求めていたとしても、直ちにその支払いがなされるケースはそう多くはありません。また、内容証明郵便を踏まえて、相手方においても弁護士を依頼してくることがあり得ます。その場合には、当方からの要求事項に対して相手方からの反論が記されていたり、相手方として考えている示談の内容や条件が記されていたりするかと思います。

  そうした内容や回答に対しては、別途、被害者側としてのスタンスを十分に検討し、さらに通知や回答を送るなどして対処を決めることとなります。他にも、相手方が内容証明郵便に何らの反応も示さない場合には、再度の内容証明郵便の発送や訴訟の提起なども検討し、これらに踏み切るかどうかの判断をする必要があります。というのも、内容証明郵便によっても、これに応答すべき義務を相手方に課すことまではできないので、何らの反応がないケースに対しては次の手段をこちらが講じるしかないのです。

6 まとめ

  子どもが受けたいじめ被害に対して、内容証明郵便を送付することで解決を考えた場合には、上記のように誰に、どのような内容で送るか、送った後はどのように対応すべきかがとても重要になります。

  証拠の問題や法的にどこまでの請求ができるのかという問題が絡み合うことから、一通の内容証明郵便を送付すればそれですべてが解決することは考えにくいのが実情です。

  とはいえ、内容証明郵便を送付することは受けているいじめ被害に対する強い牽制効果があることも事実です。これまで黙って我慢してきた被害に対して、声をあげる手段としては非常に大きな意味を持ちます。そのような観点も踏まえて今回の掲載記事を踏まえて内容証明郵便を送付することをご検討いただけますと幸いです。

  

執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所