子どもにまつわる法律

いじめ防止対策推進法について

1 いじめ防止対策推進法とは

 いじめ防止対策推進法は、

「いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであることに鑑み、児童等の尊厳を保持するため、いじめの防止等(いじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処をいう。以下同じ。)のための対策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにし、並びにいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針の策定について定めるとともに、いじめの防止等のための対策の基本となる事項を定めることにより、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的」

とした法律です(いじめ防止対策推進法1条)。

 これを要約すると、①いじめがいじめ被害者の権利を侵害し、生命などに重大な危険を生じさせるおそれがあることから、②いじめの防止等のための対策を推進するものといえます。

 当然のことですが、いじめ対策推進法は、いじめ問題の対策について定めた法律そのものなのです。

 この法律はかかる目的を踏まえ、おおむね以下のような内容で構成されています。

 次項以下では、これらの内容のうち重要な点について解説を加えます。

  • ①いじめの定義付け(2条1項)
  • ②いじめの禁止(4条)
  • ③国、地方公共団体、学校の設置者、学校、教職員の責務(5条から8条)
  • ④保護者の責務(9条)
  • ⑤国などによる基本方針の策定(11条から13条)
  • ⑥学校の設置者や学校による基本的施策などの実施(15条から21条)
  • ⑦いじめの防止等に関する措置(22条から27条)
  • ⑧いじめ重大事態への対処(28条から33条)

2 ①いじめの定義付け(2条1項)について

 いじめ対策推進法では、「いじめ」の定義について、次のように規定しています。

第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

 このいじめの定義に関し、平成25年10月11日付の「いじめの防止等のための基本的な方針」(以下「基本的な方針」といいます)には次のように解説が加えられています。

この解説からは、①いじめにあたるかどうかは被害者側の立場に立って判断すること、②いじめにあたるかどうかを限定解釈しないこと、③とはいえ、いじめのあった時点における客観的な状況の確認を排除すべきでないことが、いじめ該当性の判断に際して重要といえますし、いじめ問題に直面した当事者や学校などの関係者が寄るべき指針だと言えます。

「個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的にすることなく、いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である。

この際、いじめには、多様な態様があることに鑑み、法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり、「心身の苦痛を感じているもの」との要件が限定して解釈されることのないよう努めることが必要である。例えばいじめられていても本人がそれを否定する場合が多々あることを踏まえ,当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく観察するなどして確認する必要がある。

ただし、このことは、いじめられた児童生徒の主観を確認する際に、行為の起こったときのいじめられた児童生徒本人や周辺の状況等を客観的に確認することを排除するものではない 。

3 ⑥学校の設置者や学校による基本的施策などの実施(15条から21条)について

 「学校の設置者及びその設置する学校は、児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない。」(15条)とされ、そもそもいじめが起こらないようにするための施策です。

また、「学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。」とされ、仮にいじめが起きても早期に発見することができるように必要な措置を求めるものです(16条)。

4 ⑧いじめ重大事態への対処(28条から33条)について

 ⑴いじめ重大事態とは

いじめの中でも特に程度の重い事例をいじめ対策推進法では「いじめ重大事態」と定め、これに対する適切な対処を求めています(いじめ対策推進法第5章「重大事態への対処」)。

 ここで、いじめ重大事態とは、次の二つのケースが想定されています。

  • 一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
  • 二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

 この二つ目のケースは「不登校重大事態」と呼ばれ、欠席日数が「年間30日であること」が目安とされています。しかし、「児童生徒が一定期間、連続して欠席しているような場合には、上記目安にかかわらず」迅速に調査に着手することが必要とされています(基本的な方針)。

 ⑵いじめ重大事態の調査について

 いじめ重大事態が生じた場合には、学校の設置者又は学校は、「質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。」とされています。

 その調査に際しては、文部科学省による「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が策定されていることから、これに則り行われることが必要です。

 調査組織としては、学校関係者のみならず、弁護士や精神科医、心理福祉の専門家の参加が望ましいとされていますが、実際には学校関係者のみで組織されてしまっているケースが多く、調査組織のあり方としての問題点が指摘されています。すなわち、いじめ重大事態の際には、実態調査が必要なのですが、調査組織の構成については教育委員会と学校ないし校長とで決めてしまい、必ずしも第三者が入るケースは多くはないということです。

 いずれにしても調査組織が構成された後、いじめ重大事態に関し、加害児童、被害児童、その他の児童への聞き取りないしアンケートの実施などにより調査が行われます。

 調査の結果を踏まえ、その結果が保護者に説明されるなどしますが、どの程度の説明になるかは調査組織の判断にもよるところです。

 また、調査結果を公表するかも調査組織の判断によりますが、必要であれば行政文書の開示請求により内容を明らかにしてもらえる場合もあります。

5 まとめ

 いじめの問題に対しては、学校による防止措置が非常に重要な役目を持ちます。また、いじめが生じてしまった際の調査や再発防止も同様です。そのため、いじめ対策推進法では、学校にこれらの義務を課していますが、だからといって学校が必ずしも常に被害児童のことを十分に理解しているとは限りません。

 そうした場合には、被害児童の立場に立って、学校に対して適切な措置をとるよう求めることが弁護士の役割として期待されているところです。