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どこからがいじめ?いじめの定義とは?~いじめ問題に詳しい弁護士による解説~

 この記事では、判断の別れがちな「いじめ」の定義や判断基準を具体的に解説します。その上で、何がいじめに該当するのかの例や、いじめが犯罪に該当する例についても紹介します。また、いじめ問題に詳しい弁護士のこれまでの経験に基づく実際のコメントも含めていますので、どこからがいじめに該当するかの悩みを抱えた際の参考にしてください。

1 いじめとは何か?法律上の定義について

 ⑴いじめ防止対策推進法における定義

 いじめ問題に悩んだ当事者やその家族は、「自分の受けていることがいじめにあたるのではないか?」「自分の子どもがされていることはまさにいじめなのではないか?」と考え、受けている被害が「いじめ」に該当するか否かを思い悩むようになります。

 その際に、「そもそもいじめとは何を指すのか?」を確認し、いじめとそうでない行為との線引きを意識することでしょう。

 そこで、「いじめ」の定義を明らかにする必要があるところ、これはいじめ防止対策推進法という法律に明確に定義付けされております。

「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(いじめ防止対策推進法2条1項)

 ⑵いじめ防止対策推進法における定義の位置づけ

 いじめ防止対策推進法では、いじめについての国、地方公共団体(都道府県や市区町村)、学校、教職員、保護者の責務を定めています。そのため、上記の法律上のいじめの定義はこれら関係者にとって非常に重要な意味を持ちます。

 すなわち、この法律に定める「いじめ」に該当すれば、この法律で課せられたそれぞれの責務を果たす必要があるからです。

 その結果、学校等は、いじめ防止対策推進法に規定された「いじめ」の定義を非常に重要視する必要があるのです。

 当然、いじめ被害を訴えられた場合やいじめ被害の相談を受けた場合には、この定義に該当するか否かを慎重に見極める必要が生じます。

 加害児童としても、自らの行為が「いじめ」に該当するか否かは、自分の主観ではなく、このいじめの定義に沿って判断されることから、このいじめの定義は非常に重要な意味を持つこととなります。

 いじめ問題に深くかかわる弁護士としても、法律の専門家としての立場から、いじめ防止対策推進法に定められているいじめの定義を常に強く意識して相談に対応したり、案件に対応したりしています。

 そのため、いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義は関係者にとって非常に重要な意味を持つものとなっているのです。

 ⑶いじめの定義の変遷について

 上記のいじめ防止対策推進法は、2013年(平成25年)に施行され、その結果、上記の定義がいじめについて初めて法令上の定義として規定されたものです。

 すなわち、この法律の施行以前には法令上のいじめの定義はなく、主に以下のようにその定義は変遷をしてきました。いずれも文部科学省が実施する「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の際に設定された定義によるものでした。

 この定義の変遷は、いじめの実態を反映し、いじめ被害に傷ついて苦しむ児童生徒や保護者にとっては望ましいものでした。まさにいじめの捉え方や受け止め方について、時代の変化を理解することができます。

 とはいえ、そもそもいじめ防止対策推進法の制定までには相当の年月を要したことを考えると、本当の意味でのいじめ撲滅までにはまだまだ時間がかかると思います。

【昭和61年度からの定義】

 この調査において、「いじめ」とは、

 ①自分より弱い者に対して一方的に、

 ②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、

 ③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。

 なお、起こった場所は学校の内外を問わないものとする。

【平成6年度からの定義】

 この調査において、「いじめ」とは、

 ①自分より弱い者に対して一方的に、

 ②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、

 ③相手が深刻な苦痛を感じているもの。

 なお、起こった場所は学校の内外を問わないとする。

 なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。

 ○「学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」を削除

 ○「いじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」を追加

【平成18年度からの定義】

 本調査において、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。

 (※)なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

 ○「一方的に」「継続的に」「深刻な」といった文言を削除

 ○「いじめられた児童生徒の立場に立って」「一定の人間関係のある者」「攻撃」等について、注釈を追加

2 これっていじめ?

⑴いじめの事例ごとの解説について

 以上の法律上の定義を前提に、では具体的にどのような行為であればいじめに該当するのかを具体的にみていきたいと思います。

 なお、以下ではいじめの種類ごとに分類して整理し、解説をしようと思います。

 また、これらのいじめ被害については、その後の対応のためにはできる限り証拠を残しておくことが重要です。このことについては、別のページに詳細に解説をしているのでそちらもご参照ください。

「いじめの証拠がない場合でも、学校や加害者を訴える方法についての弁護士解説」

⑵からかう、悪口を言うなど言葉によるもの

 からかう内容、悪口など言葉を通じてされたことの内容は千差万別ですが、やはりこれらを言われた児童等が心身の苦痛を感じているということになれば、いじめに該当すると認めることができます。

 また、からかう、悪口などの内容が誹謗中傷行為でありかつ名誉棄損、侮辱に該当するようであればこれらの罪の成立もあり得る行為となります。

 ところで、加害者側や学校側から時に指摘されるのが、「いじめられた側も言い返していた。」「いじめられた側が授業中にうるさかったから注意しただけだ。」「言われた方も笑っていた。」などという言い分です。

 しかし、いじめられた側が言い返すのは言わば正当防衛の一種でしょうし、授業中にうるさかったらからかったり、悪口を言ったりしてよいことにはなりません。

 したがって、からかう、悪口を言うという類の言動も、これをされた側の心情に照らし、いじめに該当することが十分にありうるのです。

 なお、いじめ被害者の立場で弁護をすることが多い弁護士の観点からすると、お互いが言い合っていたなどを理由として、学校側もまたいじめとは認識をしていないケースが散見されるように思います。

 言い合っていたといっても、それは表向きのことであり、背景にある人間関係や、当該発言に至った経緯に照らしてよく確認をすれば、いったいどちらが加害者で、どちらが被害者なのかは明確に判断することが可能です。

 しかし、教師や担任、学校はそのような人間関係や背景事情にまで踏み込むことなく、表面的に物事を判断しがちな点に注意が必要です。 

⑶叩く、蹴るなど

 叩く、蹴るなどの行為はまさに暴力行為であり、刑法上も暴行罪に該当するものです。ケガをすれば傷害行為、傷害罪の問題です。したがって、これらは当然、いじめに該当します。 

 また、からかうなどの事例と同様に、お互いが叩き合っていたというようなケースであっても、お互いの人間関係、叩き合うに至る背景事情などに照らし、単なる喧嘩なのか、そうではなく一方が他方をいじめているのかの判断を慎重に行う必要があります。

 そして、やはりこれらのケースでも、学校や担任の先生は、「こんなのはじゃれあっているだけ」「ふざけあっているだけ」などと起きた事態を軽視し、被害者の受けた心の傷に気が付かないことが少なくありません。

⑷物をとる、壊すなど

 許可なくペンをとる、物を壊すなどは、自己の所有物を理由なく奪われ、毀損されたとして、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じるものであり、いじめに該当します。

 また、物を壊す行為は刑法上の器物損壊罪にも該当する行為でもあります。

⑸仲間外れにする

 学校を中心とした児童等の生活環境においては、一定の人間関係の中での生活が基本となります。そのため、意図的に当該特定の児童を特定のグループや活動から排除することは、仲間はずれであり、これをされた児童等が心身の苦痛を感じることは明らかですから、いじめに該当します。

 当然、Facebook、X(旧称Twitter)、LINEなど、最近ではその利用が小学生などでも非常に増えている各種SNS上での仲間はずれも同様です。

 なお、インターネットを通じての行為もいじめに該当しうることは、冒頭で説明したいじめ防止対策推進法におけるいじめの定義でも明記されています。

3 いじめは犯罪?

 いじめの定義や実際にどのような行為がいじめに該当するのかについては、これまで詳しくみてきたとおりです。

 その上で、いじめ加害者に対する責任追及の方法としては、①民事訴訟などを通じた損害賠償請求②刑事責任の追及があり得ます(そのほか、謝罪を求める、退学を求めるなどもありますが詳細は割愛します。)。

 この点、被害者児童や保護者からすれば、受けた被害に対して加害者から①の損害賠償請求に応じてもらうことはある意味で当然のことであり、それだけでは到底納得がいかないということで②の刑事責任の追及を求めたいと考えるケースが多々あります。

 しかし、いじめが常に犯罪になるということではなく、上記で説明したいじめの定義に該当することに加え、さらに刑法上の犯罪構成要件に該当することもまた必要です。

 そのため、たとえば暴行や傷害、器物損壊などはいずれも刑法上の犯罪行為に該当するので刑事責任の追及が可能となります。他にも、名誉棄損や侮辱に該当するような行為についても同様です。

4 いじめの受け止め方の違いはどうして生じるのか?

⑴いじめ該当性の判断はどうして別れるのか?

 これまで詳しく解説してきたように、いじめについてはその定義が厳密化し、判断基準としてはいじめを訴える側の主観を中心に判断するように変遷してきました。

 ところが、教育現場や学校、児童生徒等の間では必ずしもこのいじめの定義が十分に理解、浸透しておらず、いざいじめ被害が生じると、「そもそもこれはいじめなのかそうでないのか」という議論が巻き起こり、被害児童に対する十分な救済がなされないという事態になりかねません。

 その理由や原因にはいくつかありますが、これまでいじめ問題に弁護士の立場から何度も関与してきた経験に基づき、関係者の立場に照らして整理をすると以下のようになります。

⑵学校の立場

 いじめ被害者は、自分が受けた被害について、自分の通う小学校や中学校の担任の先生、学年主任の先生に相談を持ち掛けるケースが多々あります。

 親とは異なり、まさにいじめの生じた現場で、自分のクラスを受け持つ担任が第三者的立場から、大人という立場から自分の受けた被害を理解してくれて、いじめを止めさせ、この窮地から助けてくれるものと信じるからです。

 ところが、学校や担任の先生などは生徒の訴えを聞きつつも、お互いの児童生徒を呼びつけて順番に話しを聞いて終わりにしたり、いじめられた側にも落ち度があるように解釈したりして事を終わりにすることも多いようです。

 当然、これではいじめ防止対策推進法にあるいじめの定義に当てはめて検討をしたことになりませんし、いじめ防止対策推進法にある学校としての責務を果たしたことにもなりません。

 それにもかかわらず、学校や担任がこのような程度の対応しかとならいのは、言わば自己保身や臭い物に蓋をするという発想があるからに外なりません。

 学校としては、いじめがあったとなると対外的には不名誉ですし、事の顛末を教育委員会に報告をしたり、事態の収拾のために関係者間の調整をしたりということで、日常の学校運営に加えた多数の手間が出ることを懸念するものと思われます。

 実際、いじめ問題の被害者側の代理人として被害者の声を聞くと、学校側の対応が、如何に不誠実かがよく分かります。当然、そのようなケースにおいては、代理人弁護士として学校側がとるべき対応を法令に基づきしっかりと求めることとなります。そして、学校としてもそのような弁護士からの要請を踏まえて、それまでの対応を改めることが多々あるのです。

 逆に言うと、被害児童がいじめを学校や担任に訴えたところ、たちまちに学校側がこれをいじめと判断し、対処をしたというケースは聞いたことがありません。

⑶加害者側の立場

 学校とは異なり、加害者側の場合には、そもそもいじめ防止対策推進法という法律の存在や内容をまったく知らないことが通常です。当然、いじめについての定義や、その判断基準についても同様です。

 さらに、加害者自身が自己保身を図ることは学校側などと同様です。

 とりわけ、被害児童からも叩き返されたケース、言い返されたケースではこのような加害者側からの言い分が出ることが多くなります。

 そのため、いじめ問題に対応してきている弁護士の立場からすると、学校側以上に加害者側のいじめに対する認識を改めさせることが難しいと感じています。

 加害者側との面談をしたとしても、加害者側からは「〇〇とは言ったが、△△とは言っていない。なので〇〇と言ったことだけは謝罪します。」とか「いじめのつもりはなかったが、嫌な思いをさせたのであれば謝罪します。」とかというように、当該問題となる行為の全部を認めないとか、当該行為をしたことは認めるが、いじめでないと強弁したりするということが多々あります。

 このような態度に対して、被害者側は到底納得がいきません。そのため、このような態度をとる加害者に対しては、事実や責任を明らかにするために損害賠償を求めるなどの対応に打って出る他なくなるケースがあります。

⑷被害者側の立場

 いじめの判断基準は、あくまで被害者本人の立場から考えるようになっています。そのため、本人の主観にしたがっていじめ被害を訴えることとなります。

 そのことを捉え、時に事実を過大にしたり、あることないことをいじめとして訴えたりするケースがあるようにネットでは被害者側の問題として指摘をされているケースがあります。

 しかし、少なくとも私がいじめ問題に関与する中で、被害者側がこのような行動をとっていじめを捏造したなどという出来事は今まで一度もありません。

 そもそも、いじめの被害はそのような目に遭いたくて遭っているものではありません。いじめ被害は人生被害そのものであり、これを一種の保険金詐欺のように事実の捏造があるように指摘すること自体、問題があるように感じます。

 したがって、いじめの被害者の立場からすればやはり、いじめ防止対策推進法におけるいじめの定義にしたがって、受けた被害を申告すれば十分と考えられます。

 なお、上記のように学校側や加害者側は、いじめの実態について矮小化する傾向があるので、被害者の立場からするととても不安になると思いますが、あくまでいじめの定義や判断のための基準はいじめ防止対策推進法における定義にあるとおりなので過度に心配する必要はありません。

5 どこからがいじめかの判断に迷った際の弁護士相談について

 以上のように、いじめの定義は今や法律上、明確化されています。しかし、学校や加害者側の対応やスタンスに問題があるため、被害者側としては、未だに「自分の受けたことはいじめなのか?」「いじめ被害を受けたと主張してよいのか?」と委縮し、悩んでしまうケースが多々あります。

 その結果、いじめ被害がいつまでも続き、取返しのつかない結果になってしまうこともあるのです。

 いじめはいったん始まると、これが終わるまでに長期間を要することも少なくありません。しかも、いじめ被害を受けた側は、まさに生活が一変し、その後の人生にも大きな影響を受けます。

 そのため、少しでもいじめではないかと感じた際に、早急に行動をすることが大切です。そうすることで早急に状況を改善すること、いじめを止めさせること、いじめ問題を解決することが可能となります。

 その際には当然、いじめの定義については十分な検討が必要です。そのために、弁護士への相談をすることも大きな意味があります。

 したがって、自分の受けた被害がいじめに該当するかどうかを迷ったら、弁護士相談を視野に入れてもらえればと思います。

執筆者;弁護士 呉裕麻(おー ゆうま)

1979年 東京都生まれ

2002年 早稲田大学法学部卒業

2006年 司法試験合格

2008年 岡山弁護士会に登録

2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所

2015年 弁護士法人に組織変更

2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更

2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所

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