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いじめの証拠がない場合でも、学校や加害者を訴える方法についての弁護士解説

このコラムについて

このコラム記事では、いじめの被害を受けたものの、十分な証拠がないと不安を感じている親や生徒、児童らに向けて、具体的にどのような解決方法があるのか、責任追及の可能性があるのかを専門の弁護士の観点からまとめました。いじめ被害に対して自ら行動を起こそうと考えている人の参考になれば幸いです。

1 いじめの証明になぜ証拠が重要なのか?

 ⑴いじめの証拠がない場合の実際上の問題点

いじめの証明のためには証拠が重要だと言われます。

このこと自体は、多くのいじめ被害者が広く痛感しているところです。

実際、いじめの被害に遭ったものの、これを証明する直接の証拠や物証がなく、客観的証拠がないとして、いじめ被害の相談を躊躇したり、いじめ被害を相談したものの学校がまともに取り合ってくれなかったりというケースが多々あります。

また、時には弁護士へ法律相談に出向いたものの、「証拠がないから無理」と突き放されてしまうケースもあり得ます。

このようなケースでは、いじめ被害者として

いじめに遭ったのは事実なのに、周りは誰も助けてくれない

との気持ちに陥ってしまいます。

その結果、人間不信になり、最悪のケースでは人生に悲観してしまい自殺を選択するケースすらあるのです。

いじめや自殺は、これまでも繰り返され続けてきていますが、裁判で争われた有名な事例として大津いじめ最高裁判決があります。

この事件についての解説は以下のリンクからご参照ください。

 ⑵いじめの証明に証拠が必要な理由は何か?

上記のように、いじめについて証拠がないと、結局、自分の被害を周囲が正しく認識をしてくれないことがあります。

また、仮に話を聞いてくれたとしても、「証拠がないから」と見向きもされなかったりすることもあります。

さらには、証拠がない、もしくは不十分であるものの、加害者にその責任追及を求めたが、加害者側からは事実を否定され、証拠もないとして責任を逃れる対応を取られてしまうことも考えられます。

当然、証拠が不十分なままであれば、仮に学校や加害者に対して裁判を起こしても、裁判所からは「いじめの事実は認定できない」として請求が棄却されてしまいます。

他にも、いじめ被害を警察に相談したとしても、警察からはやはり「証拠がない以上は動けない」と言われてしまうのです。

そのため、いじめの全体像の把握のためには、いじめの証明のためには、また、いじめ被害の回復のためにはとにかく証拠が重要になるのです。

なお、いじめについて、証拠の有無に関わらず、学校側が十分な対応をしないという問題については別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

いじめの証明に証拠が重要な理由

①第三者や周囲の人にいじめの事実を理解してもらう

②加害者の言い逃れを許さない

③裁判所に訴えて、法的責任を認めてもらう

なお、いじめ被害を弁護士に相談した場合や依頼した場合に具体的にどのような対応になるかは別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

2 いじめの証明に必要な証拠は何か?

 ⑴いじめの内容と証拠の書類について

では、いじめの証拠としては具体的に何が必要なのでしょうか?

この点、まずはいじめの内容ないし種類に応じて必要な証拠も異なってくることから、以下ではいじめの内容に応じて必要な証拠を整理してみます。

なお、そもそも具体的にどこからがいじめに該当するのかについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

 ⑵殴る蹴るなどの身体的暴力によるいじめの場合

殴る蹴るなどの身体的暴力の場合には、これら暴力の結果、アザになったようであれば写真を撮影することでこれが証拠となります。

当然、ケガに至り病院に通院したということであれば病院の診断書も証拠になります。

他方で、アザになるほどではないとか、病院には行っていないという場合でも

「いつ、誰から、どこを、どのように殴られた、蹴られた、叩かれた。その結果、体がどうなったのか」

を、可能な限り日記やメモに書き残してください。これがまさに証拠となります。

他にも、最近ではスマホでの録音録画機能がとても使いやすいことから、暴力を受けた状況を録音する、録画するということでもこれらが証拠になります。

この点、録音や録画には証拠能力があるのか?とかプライバシー権侵害になるのではないか?と心配する声を良く聞きます。

しかし、被害者が自己の被害の証明や、後の責任追及の手段として残した録音や録画が違法な証拠と扱われることはありません

当然、裁判所や警察に提出しても何ら問題はありません。

以上を前提にしつつも、暴力を受けた際の録音は、誰が誰にどういう暴力を振るっているのかがハッキリしにくいので、可能であれば被害を受けている状態で、加害児童の名前を呼んで、そのような暴力をしないように求めるという工夫も有効です(「○○君、僕のお腹を蹴るのはやめてくれ。痛い。」などと発言し、録音に残すということです。)。

録画については、友人に撮影の協力をお願いできればベストですが、それ以外でも、自分自身がどこかにスマホを隠すなどして録画することでも構いません。当然、録音や録画をしていることを加害行為の相手にばれないように気を付けてください。

これら証拠とは別に、友人や知人などのいわゆる目撃証言も証拠となります。

後日、目撃した状況を証言してもらうとか、証言内容を文章にまとめてもらうことで証拠価値を持ちます。

目撃証言については、できるだけ具体的なものであることが望ましいことと、可能であれば暴行の状況を複数の方に証言してもらえると良いです。

身体的暴力の際の有益な証拠

①診断書

②ケガなどの写真

③日記やメモ

④録音、録画

⑤目撃証言

 ⑶「バカ」、「死ね」、「キモイ」などといった暴言によるいじめの場合

これら暴言も、当然にいじめに該当します

そして、これら暴言は身体的暴力以上に形に残りにくいことから、証拠の有無が重要となりやすいです。当然、加害者側とは言った、言わない」の争いになりやすいです

さらに、これら暴言によるいじめの最善の証拠はやはり録音や録画です。これらがあれば少なくとも「言った、言わない」の問題はクリアできます。

仮に録音・録画がなくても、目撃証言があればやはり有力な証拠となります。

証言を証拠として残すための方法は暴力によるいじめの場合と同様です。

目撃証言もない場合には、やはりご自身にて言われた内容をできるだけそのままの表現で、日記やメモに書き残しておいてください

友人や家族に、言われたことをそのまま伝え、聞いておいてもらうことでも証拠になります。

暴言の際の有益な証拠

①録音、録画

②目撃証言

③日記、メモ

 ⑷SNS上でのいじめについて

X(旧:Twitter)やLINEなど、SNS上でのいじめの類型は悪口や陰口を言うなどいくつかありますが、加害児童らがいじめの投稿などをしているようであれば、その内容をスクリーンショットで残すことで証拠となります。

ところで、SNS上でのいじめは、スマホに証拠が残りやすいという特徴がある反面、特定の人物だけで内容を見ていたりするなど、いじめ被害者に直接には内容を見られないようにするという形でのいじめが横行しています。

要するに、グループLINEからハブにするとか、被害者の見ていない場で被害者を馬鹿にするなどです。

こうした場合には、当該投稿内容を入手することは難しく、その内容を入手するための工夫が必要になります。

SNSでのいじめの有益な証拠

①スクリーンショット

⑸物を隠す、壊すなどの嫌がらせによるいじめの場合

加害児童が、自分の物を勝手にとる、隠す、場合によっては壊すなどという類の嫌がらせによるいじめの場合には、いつ誰が何をとったのか、隠したのか、壊したのかをメモに残して下さい。

また、壊された物をそのまま残しておくか、写真や画像に残しておいてください。

 

3 いじめの証拠がない場合の対応策について

⑴いじめの証拠がない場合にはどうしたらよいか?

2で紹介したような、いじめの類型ごとに有益な各証拠がいずれも存在しないような場合にはどうしたら良いでしょうか?

この点、完全に「証拠がない」とはすぐに諦めず、まずは今からでも証拠を保全できないかをしっかりと見直してみてください。

具体的には、以下のとおり、いくつかの方法があるのでご自身の立場で取り得る手段をご検討ください。

⑵日記やメモを今から作成する

まず、2で紹介したうちの「日記」「メモ」は、仮にいじめを受けた当時に記載したものが残っていなくても、現在の記憶に基づいてその当時の被害を書き記してもらうことでも一応の証拠となります。

その際には、何をどう書いたら良いのかを専門家の弁護士にアドバイスや指導を受けてから書くことをお勧めします。

⑶追加の証拠を収集する

また、いじめが仮にまだ継続しているケースであれば、やはり引き続き証拠の収集を意識してもらうことも大切です。

その際に、最近では探偵に調査依頼をするケースも増えてきているので、必要であれば探偵にいじめの被害の実態を調査してもらい、証拠に残すことも有効といえます。

当然、探偵への依頼の際にはいじめ問題について経験のあるプロの探偵に依頼をしてください。多くの探偵は、不貞の案件については経験があるけど、いじめの問題についてはあまり経験がないのが通常だからです。

⑷いじめ実態調査をお願いする

次に、いじめ被害者の方にはまだあまり馴染みがないことが多いですが、受けたいじめについては被害者の側から学校に対して「いじめ実態調査」の申し入れが可能なケースがあります。

これは、いじめ防止対策推進法に定められた学校等に対する法的な義務であり、以下のような場合にいじめ実態調査を行うこととなります。

この点、いじめ防止対策推進法28条1項がいわゆる「いじめ重大事態」と呼ばれるケースであり、このいじめ重大事態に該当する場合には、調査が必須とされています。

そして、いじめ被害者やその保護者からは、これら調査の申し入れが可能なのです。

このいじめ実態調査は、学校もしくは第三者委員会によって実施され、被害児童、加害児童、同級生らに対して詳細なヒアリングが行われ、いじめの事実の有無や内容が最終的には文書で詳細に報告されます。

当然、その内容は重要な証拠価値を持ちます。

いじめ防止対策推進法23条1項

児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるとき

いじめ防止対策推進法28条1項

一いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。

二いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

なお、いじめ防止対策推進法の詳細は別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。

また、いじめ被害に対してこれを重大事態として第三者委員会にいじめ実態調査を申し入れた結果、いじめが認定された事例として当事務所取り扱い事例を別のページに詳細を説明していますので、そちらをご参照ください。

⑸いじめ加害者に事実を認めさせる

さらに、いじめの証拠はあくまで「加害児童がいじめの事実を争ってきた場合」の問題です。

そのため、加害児童やその保護者との面談や話し合いの結果、加害児童がいじめの全部もしくは一部を認めた場合には、認めた限度で証拠は必要なくなります。

なので、いじめの証拠がないケースであっても、受けた被害を前提に、これを加害児童に認めてもらうことでその責任追及が可能となるのです。

ただし、この場合の責任追及は、あくまで民事上の問題に留まります。

刑事上の責任は加害者が認めていたとしても、きちんとした証拠がないことには警察は動いてくれません。

民事責任を訴えるのとは異なり、刑事責任については民事よりも高いレベルの証明が求められるため、単に加害児童が認めているだけでは不十分なのです。

なお、いじめをした加害者側が自らいじめを認めることなどあるのか?と思うかもしれませんが、加害児童にも様々なタイプの児童がますので、自分がしたことを後悔し、反省の気持ちから事実を素直に認めることも少なくないのです。

なのでその可能性を期待して、加害児童に接触をすることには大きな意味があります。

いじめの証拠がない場合の対応策

①記憶に基づきいじめの被害をメモにまとめ直す

②新たな証拠をとれないか検討する

③いじめ実態調査を実施してもらう

④いじめ加害者がいじめを認めないか検討する

4 いじめの証拠がない場合のまとめ

いかがだったでしょうか?

いじめの証拠が重要なことは相手方に事実を認めさせるため、責任をとってもらうためにとても重要なことはそのとおりです。

しかし、その際に証拠が十分でないと過度に心配することはありません。

何も証拠はすべて被害者で集めるばかりではなく、上記のようにいじめ実態調査の方法や、加害児童に認めてもらう方法でも責任追及は可能なのです。

なお、いじめによる損害賠償として、具体的に何をいくら請求できるかについては別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。