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「発達障害がある子は、ちょっと…」発達障害と保育園の入園拒否問題

4月、新学期が始まりました。

この春から、保育園・幼稚園・子ども園等への通園が始まるお子さんも多いのではないでしょうか?私事ですが、私の甥もこの春より保育園に入園が決まりました。

さて、最近、子どもの障害(発達障害等)を理由に、保育園等が入園拒否をする事案を耳にします。保育園等のこのような対応は適法なのでしょうか?

この点は、障害者差別解消法に照らして考える必要があります。

同法7条は、以下のように定めています。

第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。

 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

そして、行政機関等のみならず、(民間の)事業者に対しても同じ義務が同8条にて課されています。

したがって、公立・私立問わず、各種保育園等は上記義務を負うことになります。

そうすると、結局、入園を拒否することが障害者差別解消法に反するかどうかは、同法7条1項の「不当な差別的取り扱い」にならないかどうかという問題になります。

(なお、7条2項の「合理的配慮」も大事な条文ですが、これはむしろ、入園後に、障害のある子に対して適切な保育を求める場面で用いることが多いでしょうから、本記事では省略します)

この「不当な取扱い」関しては、内閣が以下のような対応指針を出しています。

「法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の抵抗を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。」

「正当な理由に相当するか否かについて、具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である」

そして、不当な差別的取り扱いの具体例として、

「〇客観的に見て、人的体制、設備体制が整っており、対応可能であるにも関わらず、教育及び保育の提供を拒否することや、提供に当たって正当な理由のない条件を付すこと。

〇教育及び保育の提供に当たって、仮利用期間を設ける、他の利用者の同意を求めるなど、他の利用者と異なる手順を課すこと。」

を挙げています。

ここで大事なのは、「個別の事案ごとに」判断せよとされていることです。

一言に発達障害と言っても、その程度も現れ方もそれぞれです。加えて、保育所の規模、設備、人的体制もそれぞれであることから、それら諸事情も考慮のうえ、対応の手段を検討する必要があります。

一般的に、発達障害であるという理由のみにて、その個別の事情を鑑みず門前払い的に入園拒否を行うのは、まさに不当な差別取扱いとなるでしょう。

なお、当該指針によれば、仮に障害を理由に異なる取扱いをする場合、その理由について説明し、できるだけ理解を得られるよう努めるべきである旨も記載されています。

また、児童に障害があることを理由とした保育園の入園拒否が違法であるとして、当該入園拒否処分を取り消すとともに、入園の承諾の義務付けを認めた判例があります(東京地裁平成18年10月25日)。

この判例が出た当時は、まだ障害者差別解消法は施行されていないため、理由中に同法の解釈等は挙げられていません。

また、同判例は、気管切開手術を受け、カニューレなる呼吸補助具を付けている児童についての入園拒否の事案であり、発達障害のある児童についての判例ではありません。

しかし、一方で、同判例は、児童福祉法の解釈を巡り、諸事情に照らした総合的な判断を示しており、今でも考え方の参考にはなり得ます。

児童福祉法24条1項但し書きによれば、保育所の入所要件を満たしていても、やむを得ない事由があるときは、保育所への入所以外の保護をすべきとしています。障害を理由にした入園拒否が、同法の「やむを得ない事由」にあたるのか、というのが同判例の争点です。

そして、同判例は、①障害の内容や程度➁発達状況③障害に起因する重大な事故が発生する可能性④保育士による事故の防止可能性➄保育園の看護師の配置状況等を考慮すると、保育所での保育が可能であり、行政処分長は考慮すべきことを考慮しなかったとして、その判断裁量に逸脱・濫用があり、違法であると判断したのです。

これらは、先に述べた「不当な取扱い」該当性の考慮要素とも似た判断要素が示されており、その意味で判断の参考になり得ます。

結局、保育園の入園拒否が、障害者差別解消法に反するか否かは、諸事情を総合的に考慮する必要があります。

もし入園拒否を受けたら、上記指針の存在を示し、個別事情に照らして判断をしてもらう必要があることを説明すべきでしょう。そのうえで、入園の受け入れができないということであれば、その理由を丁寧に説明してもらうことが大事であると考えます。

また、保育園側としても、保育対応が本当に不可能かどうか、丁寧な検討をしてもらいたいと思います。もちろん、できる限り配慮を尽くしても、やむなく受け入れができない場合もあるでしょう。その際には、やはりその検討内容についての説明を尽くすということに留意してもらいたいと思います。

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