このコラムについて
このコラムでは、いじめ被害を教育委員会に訴えることの意味や効果について、いじめ被害者の立場で活動している弁護士の経験に基づく解説をしています。いじめに対して学校や加害者側の対応に納得がいかないケースに関し、教育委員会への相談や教育委員会に学校の対応改善を訴えることを考えている方はぜひご一読ください。
1 どういう場合に教育委員会にいじめを訴える必要があるか?
いじめの被害に遭った際に、トラブルの当事者となった児童生徒及びその保護者や親は、通常まずは通っている学校や加害児童、生徒及びその保護者に対して、自分で事態の解明や事実確認、必要な謝罪や必要な対応を求めることとなります。
いじめ被害の申告を受けた学校は、校長、教頭、主任や担任の教師らにおいて、当該訴えを受け止めた上で必要な調査や事実確認、対応をとります。
また、いじめの加害者は、当該いじめが事実か否か、事実と認めるのだとすれば当該行為にどう考えているのかについて、学校や被害者に自らの認識を明らかにしていきます。
これらの話し合いややりとりの結果、被害者と加害者及び学校の間で調整が付き、折り合いが付くようであればいじめの問題は解決し、それ以上にいじめ被害者が何か行動をとる必要はありません。
ところが、時に学校や加害者側の対応が不十分なことがあり(いじめの対象となる暴力を否定したり、いじめではないと弁解をしたり、子供のしたことをかばったりなど)、そうなると被害者側としても学校や加害者側とのやりとりに納得ができず、次の手段を考えることとなるのです。
その手段としては……
警察に訴えるないし被害相談をする
弁護士に相談をするもしくは依頼をする
弁護士会の人権救済申立て制度を利用する
などいくつか考えられます。
そして、これら手段のうちのひとつとして、教育委員会に訴える方法が考えられるのです。
2 教育委員会以外にいじめを訴えることとの相違点は?
では、上記のように学校や加害者が十分な対応をしない際に、警察や弁護士、弁護士会ではなく教育委員会に訴えることにはどのような意味ないし違いがあるのでしょうか?
もしくはこれらと並行して教育委員会に訴えることも問題はないのでしょうか?
この点に関しては、そもそもいじめ被害の際の
警察の役割
弁護士の役割
弁護士会の役割
教育委員会の役割
を理解することが重要です。
そこで、次項以下で順次、説明をしたいと思います。
3 いじめ被害の際の警察の役割は?
警察
警察:「刑事事件についての捜査」を担当する公の組織
まず、警察についてですが、警察は言わずもがな「刑事事件についての捜査」を担当する公の組織です。
そのため、いじめの加害行為が刑事罰を構成する行為である場合には、警察もまたいじめ問題に関し、その捜査権限を活かして関与をしてくれます。
なお、文部科学省では2023年2月7日に、「いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携等の徹底について」と題する通知を、各都道府県の教育委員会等に発出しています。そのため、「学校内のことだから」とか、「子ども同士のことだから」という理由で警察が捜査に消極的になることは到底許されないものといえます。
ただし、加害者が未成年である以上、刑法上の責任能力の問題が付きまとう点はご理解ください。
すなわち、刑法上の責任能力がないことを根拠として、警察はいじめ問題に対して消極的な態度を取ることも少なくないのです。とりわけ小学校でのいじめの場合には、警察の介入がより一層消極的になりがちです。
とはいえ、本来、そもそも学校はいじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認める時には、警察と連携をすることなどが法律上求められています(いじめ防止対策推進法23条6項)。
そのため、学校や警察がいじめについて連携を取ることに消極的なようであれば、この条文を根拠に対応の改善を求めることも可能です。
siryou14 いじめ被害の際の弁護士の役割は?
弁護士
弁護士:「当該いじめが刑事事件になる場合に限らず、民事上の不法行為に該当するような場合であっても、被害者の代理人として活動をすることができる。
次に弁護士についてです。
弁護士は、警察とは異なり、当該いじめが刑事事件になる場合に限らず、民事上の不法行為に該当するような場合であっても、被害者の代理人として活動をすることができます。
また、警察と違い、公の機関ではなく、あくまで被害者側の代理人という立場での活動になります。
そのため、学校に対して、加害児童に対して起きた出来事の責任を専門家の立場から追及するというスタンスで臨むことが可能となります。
具体的には、学校側に対しては適切な調査や再発防止の要求や、学校側にも法的責任がある場合の示談交渉ないし訴訟対応ができます。
また、加害者側との示談交渉や訴訟対応も当然に可能です。
その際、いじめの加害者が未成年であっても、民事上の責任能力(概ね12歳程度とされています)を考慮しつつも、その監督者たる保護者・法定代理人の責任を追及することも可能です。
この未成年者の民事上の責任能力と親権者の法的責任については、こちらのページの解説もご参照ください。
なお、いじめ被害の弁護士相談については、本サイトの別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。いじめの分野に詳しい弁護士へのご相談が重要です。
5 いじめ被害の際の弁護士会の役割は?
上記の他にも、個人の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、弁護士が加入する強制加入団体である弁護士会は、いじめ被害を受けた方からの人権救済申立てというものを受け付けています。
申し立てを受けた弁護士会は、当該申し立ての内容を調査し、当該申し立てに理由があるとなれば、学校側に対して一定の措置(要望、勧告、警告等)をとることがあります。
ただし、裁判や示談交渉とは異なるので、民事の賠償責任の有無や解決を図るものではないことや、警察とは異なるので刑事責任の追及になるものでもないことに注意が必要です。
なお、岡山弁護士会がいじめ自殺をした被害者遺族からの申立てを受け、学校側に再発防止の要望書を出した事例があるので別サイトにはなりますが、ぜひご参照ください。
6 どうやって教育委員会にいじめを訴えるのか?
以上のように、いじめ被害を訴える先には複数あり、それぞれについてそれぞれの特徴があることがご理解いただけると思います。
そして、これらの特徴やその違いを理解した上で、いよいよ教育委員会に訴える必要を感じた際に、具体的にはどのような方法で訴えることが可能でしょうか?
この点……
まずは個人で直接教育委員会に連絡をし、持ち掛けることが可能です。
当該地域を管轄する教育委員会に連絡をすることで、直接いじめ被害の実態を訴え、その後の対処を求めるということです。
次に、弁護士に協力を求め、弁護士を通じて訴えることも可能です。
上記のとおり、弁護士は専門家として被害者の側の立場になって、その代理人として活動をすることができます。その一環として教育委員会にアプローチをすることが可能です。
では、いずれの方法が適切かということですが、それまでの学校の対応や加害者側の対応に照らし、いずれも消極的な態度であり、教育委員会にしっかりとした対応を求める必要があるなら弁護士を通じての申し入れがより適切かつ妥当だと言えます。
なお、そもそも当該いじめがいじめ重大事態(いじめ防止対策推進法28条1項)に該当する場合には、学校は、当該いじめ重大事態について必要な調査を行うこととなっています。
その上で、重大事態が発生した旨を、教育委員会を通じて当該地方教協団体の長に報告する義務があります(いじめ防止対策推進法30条1項)。
したがって、当該いじめがいじめ重大事態に該当する場合には、すでに学校から教育委員会には当該事実は報告されているのが通常です。
7 いじめを教育委員会に訴えた後の学校の対応はどうなるか?
冒頭で記載したとおり、通常はいじめ被害者はいじめ被害を学校や加害者側と直にやりとりをします。
その上で納得のいく対応や結論にならない場合に、教育委員会を含めて次のアクションを起こします。
そもそも学校側がいじめに対して満足のいく、納得のできる対応をしていれば、このようなアクションを起こす必要はないのですが、実際にはそうとも限らないのが実情です。
そして、学校側によるいじめに対する消極的な姿勢は今に始まったことではありません。
この点に関しては別のページに詳細を説明していますので、そちらをご参照ください。
このような学校の姿勢は、教育委員会に訴えることで多少とも変化を期待したいところですし、実際、教育委員会に訴えることで態度が変わることは少なくありません。
具体的には、いじめ認定やいじめ調査に消極的だった学校が、(しぶしぶかもしれないものの)調査や認定に前向きになることがあります。
言い方を変えると、いじめ被害の訴えに対して、学校内部で事を治めることが可能であればできればそうしたいと考えていたものの、教育委員会に訴えられることによって、もはやそのような手段はとれないと判断し、(しぶしぶ)調査や認定を行うようになるということです。
8 いじめを教育委員会に訴えた後の加害者の対応はどうなるか?
では、いじめを教育委員会に訴えた後の加害者側の対応はどうなるでしょうか?
この点に関しては、学校の姿勢の変化とは異なり、「ほぼ変化はない」のが通常です。
そもそも教育委員会に訴えなくてならないようないじめの場合には、加害者側とも交渉が決裂していたり、加害者側の態度に問題があったりするケースが大半です。
そのため、加害者側としては、「教育委員会に訴えたいならどうぞお好きに。」と言わんばかりの態度に終始することが多いのです。
当然、教育委員会に訴えたとしても加害者側の態度が変わることはありません。
なお、いじめ加害者側に示談交渉を求めて内容証明郵便を送ることがあります。
そのことの意味などについて、別のページに詳細を説明していますのでそちらをご参照ください。
9 いじめを教育委員会に訴えた結果はどうなるか?
以上、具体的にどのような場合に受けたいじめ被害を教育委員会に訴えるのが良いのかなどを解説していきました。
そして、教育委員会に訴えることで一番意味があるのは、学校の対応に不満があり、その改善を求める場合です。
対応に問題のある学校に対して、教育委員会に訴えることで改善を実現する例は少なくありません。
なので、学校の対応に不満がある際には教育委員会に訴えることで解決の余地があるといえます。
ちなみに、いじめ被害者の立場で弁護士としてこれまで多数の教育委員会に訴え、やりとりをしてきた経験に照らすと、昨今の教育委員会は全般的に弁護士からの訴えに対してごく丁寧な対応を取ろうとします。
また、いじめ被害の訴えには真摯に耳を傾け、学校に対して可能な限りの措置をとってくれます。
結果、学校の態度が改まることも多々経験してきました。その意味ではやはり教育委員会に訴えることの価値があるかといえます。
とはいえ、教育委員会もあくまで一行政機関に留まるため、出来ることには限りがあることも見てきました。
したがって、教育委員会という組織が持つ役割や権限に照らし、その限界も理解しつつ、いじめ被害の相談をし、訴えていくことが有効だといえます。
10 いじめを教育委員会に訴えるに際して当事務所でできること
教育委員会にいじめの問題を訴えることは、非常に多くの苦労を伴います。
勇気を持って訴えても、すぐに応じてくれないことも考えられます。
また、取り上げてくれたとしても、思うような動きをとってくれないこともあります。
そうした中、教育委員会の消極的な姿勢に対して弁護士としては以下のような対応が可能です。
① 教育委員会への申入書の作成や提出
② 教育委員会への直接の申し入れ
③ 教育委員会の消極的な態度に対する改善申し入れ
以上の活動のために、当事務所では弁護士費用として着手金275,000円(税込)にて対応しております。
この費用は、教育委員会に訴える前提としての学校に対するいじめ実態調査申し入れのための弁護士費用ともセットになるので、学校への対応を取る延長として教育委員会への対応が可能となっています。
弁護士の介入を受けて教育委員会にいじめの問題をきちんと訴えることで、子どもの権利回復に繋げられるものと考えています。
執筆者:弁護士 呉 裕麻(おー ゆうま)
1979年 東京都生まれ
2002年 早稲田大学法学部卒業
2006年 司法試験合格
2008年 岡山弁護士会に登録
2013年 岡山県倉敷市に岡山中庄架け橋法律事務所開所
2015年 弁護士法人に組織変更
2022年 弁護士法人岡山香川架け橋法律事務所に商号変更
2022年 香川県高松市に香川オフィスを開所